2008年12月2日火曜日

トヨタの未来は…

11月6日、トヨタ自動車は2009年3月期連結決算の業績予想を下方修正した。営業利益は前期比73.6%減という大幅な減収減益である。その結果、翌日の東京株価市場では日経平均株価が一時、前日比633円安となるほど大幅に続落し、この現象は「トヨタショック」と呼ばれた。

このトヨタの業績予想の下方修正の背景には、米国発の金融危機による世界的なドル安、ユーロ安による為替差損のほかに、北米市場の低迷がある。実際、国内の自動車需要が伸び悩む中でトヨタがこれまで好調な成績を挙げてこられたのは、現地生産など積極的にグローバル展開を進めて開拓してきた北米市場での売り上げが好調だったからだ。トヨタは現在、自動車ローンの金利をゼロする、低価格の超小型車iQを開発するなど、自動車需要の底上げに力を入れているが、これらは利益率が小さいので大幅な回復は難しい。

そこで今トヨタが取り組んでいるのが、2004年から開始した「革新的国際多目的車(IMV)」と呼ばれるプロジェクトだ。これは、複数の海外拠点が相互に部品や完成車の供給を相互に行う戦略であるため、利益が各国の需要や為替変動に左右されない性質を持つ。これは、自動車需要が今後も成長を続けると思われる新興国向けの戦略だ。

また、自動車需要の成長期が終わった先進国向けには「プラグイン・ハイブリッド車(PHV)」がある。これは家庭用電源で充電できるもので、2009年末の実用化を目指している。これで、燃費の悪い既存のガソリン車・ディーゼル車からの買い替えを促す狙いだ。

しかし、それでも自動車市場はすでに成長期を終えて安定期に入りつつある。今後もさらに成長を続けるためには、トヨタは自動車中心の戦略から大幅に転換しなければならなくなるだろう。果たしてトヨタにその準備はあるのか。

答えは、「イエス」だ。まず一つ目として、トヨタは今後航空産業に参入する可能性がある。その布石が、三菱重工業が立ち上げた国産旅客機プロジェクト「三菱リージョナルジェット(MRJ)」への出資である。そもそもトヨタ自動車も、その発足期においては航空機産業にも手を出すつもりだった。しかし、第二次世界大戦で軍用トラックの生産という国の方針が優先されたため、しばらくは航空機開発は中止された。その後、戦後の不況の影響でトヨタが倒産寸前の危機に陥っているうちに、航空機開発への夢は忘れ去られてしまった。MRJへの出資は、創業期の夢への第一歩となるかもしれない。

航空産業は、これまでのところは国際テロリズムや原油高、金融恐慌の影響で伸び悩んでいたが、これは一時的な現象に過ぎない。なぜなら、今後さらにグローバリゼーションが進展し、人、モノ、情報、金の交流がさらに活発化するというのが歴史的な流れだからだ。2005年にトヨタが筆頭株主となった富士重工業は航空宇宙部門を持っているため、もし今後トヨタが航空産業に参入するときにはこのつながりが大きなアセットとなるだろう。

もうひとつ、トヨタが進むべき道としては、経営コンサルタンティング事業が考えられる。「トヨタ生産方式」を学ぶために社員をトヨタ工場に派遣する企業は日本には数多いが、ついにその傾向は世界に広がった。航空機産業の巨人ボーイングが、現在開発中の新型機ボーイング787の開発のために社員をトヨタに派遣し研修させたのだ。その結果、ボーイングはこれまでは下請け会社に細かい指示を出して部品を製造させていたが、787の開発ではパートナー企業に各部品の設計まで任せ、自らは核となる技術のみに専念し、あとは全体をとりまとめるインテグレーターとしての役割を果たす。これによってコストと期間を大幅に縮小でき、また他社製品との差別化のために必要なキーとなる部分を大幅に伸ばすことができる。ボーイングがトヨタから学んだトヨタ生産方式の主要なキーワードである「ジャスト・イン・タイム」、「改善」、「かんばん方式」などは、そのまま「Just in Time」、「Kaizen」、「Kanban」という国際標準の英語になっている。

トヨタ生産方式はメーカー企業だけでなく、非製造業にも適用されている。高度成長期を終えて成熟期に入った国がさらなる成長を続けるためには、脱工業化が欠かせない。それが先進国の宿命である。モノ作り大国といわれた日本といえども例外ではない。しかし、今後日本で脱工業化が進展しても、トヨタは「トヨタ生産方式」を伝授するコンサルタントとして生き残れるだろう。