2014年1月21日火曜日

仲井眞知事に見る戦略的姿勢

沖縄県知事の仲井眞弘多氏は、まことに大した狸である。ここで辺野古への移設の是非について書くつもりはない。ある目的を達成するための戦略的な態度について語っているのだ。

彼は、自分を取り巻く環境を実によく理解していた。自分が初めから堂々と辺野古移設容認を掲げていれば、そもそも県知事選に勝つことすらできなかっただろう。彼はそのことをよくご存知だ。そこで彼は、自分の信念としてではなく、あくまでも県の民意や名護市長の姿勢などから「客観的に状況を見て県内移設は不可能」であるとして、県外移設を唱えてきた。県外移設を唱えつつも、自分自身の「信念としての県内移設反対」を唱えることは決してしなかったのである。そして、県民を納得させる上で最低限必要な譲歩を国から引き出したと見るや、辺野古への移転を事実上容認したのだ。もともと彼が県内移設「推進派」ではないにせよ「容認派」であったことは、県知事選において自民党が彼を支援したことから明らかであった。が、彼自身も彼を支援した自民党沖縄県連も、時期が来るまでは県外移設を唱えた。これは、彼らとしては最低限取らねばならなかったポーズにすぎない。

政治とは、単なる思想表明ではない。政治とは現実を変えることであり、目標を実際に実現できなければ意味を成さないのだ。したがって重要なのは、単に立派で綺麗な理想を掲げることではなく、実際に掲げた目標を達成するためには何をすべきかという戦略なのである。馬鹿正直に理想を掲げた結果、自分が潰されてしまうくらいならば、息を潜めて仮面をかぶることも必要になってくるだろう。

常に緊張状態に晒される中東やかつてのバルカン半島においては、そういった策士たちで溢れていた。あのような地域で安易に「和平」を唱えれば、国内の過激派から暗殺されかねない。だから、かの地域の多くの政治家は、たとえ和平推進派であろうとタカ派の仮面を被っていたのである。あなたがいくら立派な理想を掲げていたとしても、あなたが死んでしまえばその理想を実現することはできない。

最初に言ったように、ここで辺野古移転の是非について議論するつもりはない。少なくとも、数多くの妨害や障害に晒されながらも達成しなければならないゴールがある人々は、いかにそれらの妨害をかいくぐるかという戦略的な姿勢を、仲井眞知事からは見習えるだろう。

2014年1月20日月曜日

なぜ小泉純一郎は「脱原発」を掲げて東京都知事選に殴りこみをかけてきたか

脱原発を掲げて突如東京都知事選に名乗りを上げてきた細川護煕・小泉純一郎連合が、出馬前から既にグタグタな状況を呈し始めているわけだが、なぜこのタイミングで小泉が出てきたのか、脱原発派もそうでない人もよく考えてみたほうがいいだろう。

小泉は、もともと「政局より政策」などと言いながら、なんだかんだでものすごく政局に長けた男である。何の考えもなしにこのような動きに出るはずがない。この一見グダグダな行動の裏にも彼なりの計算がはたらいているのだろう。

まずひとつ明らかなのは、彼が前面に出て自民党執行部と対立する「脱原発」を訴えることによって、息子である小泉進次郎の存在にもスポットライトが当たるということだ。メディアの注目は、否が応でも進次郎の言動に集まることになる。現に進次郎は、自民党本部が今回の都知事選で舛添要一を支援することに対して筋の通った痛烈な批判を行っている。小泉純一郎はおそらく、自分の地盤を継いだ息子のことを、単なる国会議員の後継者ではなく「将来の首相に」と思っているはずだ。彼の動きは、何十年か後には息子の進次郎が首相候補として挙げられる存在になるよう、そのための布石を打っているように見える。

次に、今回のあまりにもグダグダな状況を見ていると、小泉の行動は「脱原発」候補をもうひとり担ぎあげることによって「脱原発」票を分散させ、脱原発派を敗北に追い込み、自民党の安倍政権の立場を有利にするための巧妙な罠のようにも見えなくもない。現に、細川陣営は未だに具体的な公約案を作成することができず、正式立候補を2度も延期するというグダグダっぷりを発揮している。こんなことをされては、「脱原発」候補に対する信用そのものが損なわれかねない。

最後に、自民党と並んで公明党が支援する舛添要一を落選させることによって、公明党の影響力の低下を狙っている可能性もある。公明党は創価学会という強固な支持基盤を持っているため、その固定票の集票力は絶大である。その固定票の絶対数自体はそこまで大きくないとしても、しばしばキャスティングボートを握る存在として、政界では大きな影響力を持っている。自民党としてはこの固定票を手放したくはないので、しばしば対立した意見をもつ公明党の主張にも耳を傾けて連立を維持してきた。政教分離の観点から言えば、宗教団体を支持基盤に持つ政党が大きな影響力を保持しているのはあまり好ましくはないのだが、それでも公明党は自民党政権が過度に右傾化・保守化するのを妨げる絶妙なバランサーとしての機能を果たしてきたことは事実だ。現に、先日の名護市長選において、自民党の支援する辺野古移転推進派の末松文信候補が落選した背景には、公明党が末松候補を支援せず「自主投票」に委ねたという事実がある。もしも公明党がこのような影響力を失えば、自民党政権はフリーハンド状態となるだろう。

小泉純一郎がいずれの目的を持っていたにせよ、細川護煕は体よく利用された神輿にすぎない。かつて小沢一郎が言ったように、「神輿は軽くてパーがいい」のだ(そして首相時代の細川護煕は、明らかに小沢一郎の「軽くてパー」な神輿であった)。細川が勝とうが負けようが、小泉は一切自分の手を汚すことなくいずれかの目的を達することができるのだ。小泉純一郎は、まことに見事な策士であった。

なぜ都知事選をやり直さなければならなかったのか

選挙を控えている時に特定の候補者のみに対する批判をおおっぴらにするものではないと思うが、これだけは言っておきたい。

前任都知事の猪瀬直樹が辞任に追いやられたのは、2012年12月16日に実施された都知事選の際に、医療法人徳洲会から5000万円の提供を受け、それを政治資金報告書に記載されていなかったことが問題となったためだ。

そしてその後任者を決めるための2014年都知事選に、かつて佐川急便から1億円の提供を受けたことが問題となって首相を辞任した人物が名乗りを上げてきたら、一体なんのためにわざわざ都知事選をやり直さなければならないのか、その理由が成り立たなくなる。

ちなみに猪瀬直樹は徳洲会から提供を受けた5000万円は借入金だったと釈明し、押印や収入印紙もない杜撰な体裁の釈明書を提示していたが、全く同じことを細川護煕は過去にやっていた。

さらに言えば、細川は「脱原発」を最大の焦点にしているが、具体的な公約内容が決まらないために二度も正式な出馬会見を延期しており、脱原発に向けた具体的な方策が一切見えない。これでは、仮に都知事に当選したとしても、かつての佐川急便からの資金提供の件について都議会で徹底的に突っ込まれ、さらに脱原発への具体的な作業も定まらず、彼の都政は早晩行き詰まることが目に見えている。

これだったら副知事時代から、天然ガス発電所建設プロジェクトや東電改革、都営地下鉄・東京メトロ一元化、東京水道の海外展開などに取り組み、都政の具体的な課題を熟知している猪瀬のほうがよほど適任ということになってしまうだろう。
いずれにせよ、細川知事が誕生しても都政が早晩行き詰まることが目に見えている以上、脱原発を本気で目指す人々は、まじめに早くから立候補して公約も明らかにしている宇都宮健児に投票した方がよほど筋が通っていて現実的だろう。

2014年1月1日水曜日

勝手に予測する2014年の5大ニュース - 国内編

第1位:消費税率引き上げ

今年4月に消費税率が8%に引き上げられることが決定している。昨年はアベノミクスにより円安が進み、輸出業界を中心に業績が回復、株式市場も活況を見せたが、消費税の増税により再び景気後退へと引き戻されないか懸念が持たれている。


第2位:憲法改正

2012年末に成立した第2次安倍政権は、アベノミクスなどの経済対策で比較的高い評価を得て昨年7月の参院選に圧勝し、小泉政権以来の長期政権となる見通しが強まった。手堅い政策で足場固めを終えた安倍政権は、いよいよ最大の政策目標である憲法改正に向けて本格的に踏み出すのではないかと思われる。


第3位:尖閣諸島問題

昨年は、中国海軍による自衛隊艦艇への火器管制レーダー照射、安部首相による領空侵犯無人機撃墜宣言、中国空軍による防空識別圏設定など、尖閣諸島問題をめぐって偶発的な軍事衝突につながりかねない事件が相次いだ。この流れは今後も強まるものと思われる。


第4位:TPP交渉

昨年安倍政権は、支持基盤の一つである農協からの反発が大きいTPP交渉への参加を正式に表明した。今後、TPPの枠組みを決める各国との交渉が大詰めを迎えるため、国内の反発を抑える条件をいかに実現できるかが大きな焦点となる。


第5位:日ロ交渉

昨年は安部首相とプーチン大統領が4回も首脳会談を行うなど、日ロは急速に接近している。久しぶりの長期政権となる見通しの安倍政権と、国内で高い支持を誇るプーチン政権が、互いの政権が現役中の北方領土問題の解決を目指しており、状況が大きく進展する可能性がある。

勝手に予測する2014年の5大ニュース - 世界編

第1位:アフガニスタン情勢

アメリカのオバマ政権は、2014年末までに国際治安支援部隊(ISAF)の完全撤退を予定している。しかしながら、タリバン勢力の伸長によりアフガニスタン国内の治安は悪化の一途をたどっており、撤退によりアフガニスタンの政治状況は激変すると思われる。


第2位:尖閣諸島紛争

2010年以来、尖閣諸島の領有権をめぐる日中間の対立は激化する一方であり、南シナ海で中国との紛争を抱える東南アジア諸国も日中間の対立の状況を注視している。また、当事国である日本と中国は世界第3、第2位の経済大国であるため、世界経済に与える影響も深刻である。さらに昨年は、中国が尖閣諸島上空を含める形での防空識別圏設定が国際問題化しており、日米安全保障条約という世界有数の2国間軍事同盟で日本とつながりを持つ米国の対応も世界中の注目を集め、米中の冷戦構造へとつながりかねない状況になっている。


第3位:朝鮮半島情勢

北朝鮮は昨年3月に朝鮮戦争の休戦協定破棄を宣言しており、南北間の緊張が高まっている。その一方で、北朝鮮は対中交易の窓口であった張成沢を粛清するなど中国に対する牽制を行いつつ、日本に対しては東京オリンピック開催を支持したり、朝鮮労働党党内序列2位の金永南・最高人民会議常任委員会委員長が内閣官房参与の飯島勲氏と会談を行うなど接近を図っている。さらに、2016年には在韓米軍の地上軍撤退が予定されており、冷戦時代の朝鮮戦争の構図とは周辺状況が大きく変化しつつある。


第4位:シリア内戦

昨年はアサド政権による化学兵器使用疑惑により、アメリカのオバマ政権は軍事介入の構えを見せたが、ロシア側の主導により化学兵器の廃棄計画が決定し、軍事介入は回避された。しかしながら、悪化する一方の治安状況のため、具体的な化学兵器の廃棄プロセスはタイムテーブル通りには進まず、昨年末までに予定されていた化学兵器のシリア国外への搬出は実現していない。もしこの化学兵器廃棄計画が実現できなければ、国際社会による軍事介入案が再浮上する可能性もあるため、廃棄計画が実際に実現できるかどうかに注目が集まる。


第5位:イラン核開発問題

核開発疑惑のあるイランでは、昨年の大統領選により穏健・改革派と目されるハッサン・ロウハニ師が大統領に就任し、ドイツを中心とする欧州の一部の国は対イラン制裁緩和の動きも見せているが、イスラエルやサウジアラビアなどの中東諸国は依然として対イラン強硬姿勢を崩さず、イスラエルは核施設の直接攻撃の可能性を残している。

勝手に選ぶ2013年の10大ニュース - 国内編

今年の大ニュースは基本的に、第2次安倍内閣成立による影響である。

 * * *

第1位:アベノミクス

昨年末に成立した安倍政権と、黒田東彦が総裁に就任した日銀との協力により、デフレ脱却を主な目的とした大規模な金融緩和と財政出動とを2本柱とする金融・経済政策「アベノミクス」が開始された。このアベノミクスにより、今年初めには1ドル=80円台後半だったドル円レートが年末には1ドル=105円台に到達するほどの円安が進行、日経平均株価も16000円台に達するなど、市場に大きな変化が起こった。企業業績も軒並み改善している。しかし、この企業業績の改善は、主に円安による為替差益によるものとみられ、肝心のデフレ脱却による景気回復が実現されるか余談を許さない。また、「3本の矢」の3本目となる「成長戦略」の中身に対する失望感も市場に広がっている。


第2位:尖閣諸島問題

2010年9月の中国漁船衝突事件以来、日中間の緊張が増す一方の尖角諸島問題であるが、今年1月には中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に対して火器管制レーターを照射するという事件が起きた。また10月には、中国の無人機が領空侵犯した場合の対応として撃墜もありうることを安部首相が明言した。11月には中国空軍が尖閣諸島上空を含める形で防空識別圏の設定を発表、中国側の公告では、防空識別圏を領空に準ずる扱いをすることを明記しているため、国際的にも大きな問題となった。なお、この中国側の発表の当日に中国側と日本側の防空識別圏の重複空域において、航空自衛隊のF-15Jが通常の手続き通りスクランブル発進を行い、その数日には米軍のB-52爆撃機が戦闘機の護衛をつけずに圏内を飛行、中国側からのスクランブル発進等はなかった。


第3位:国家安全保障体制の強化

6月、各国の国家安全保障会議と協議するための機関として国家安全保障会議の設立のための法案が成立、事務局として国家安全保障局を設置することが決定し、初代局長として元外務事務次官の谷内正太郎氏が内定した。さらに10月には、各国との機密情報共有を円滑にするために特定秘密保護法が成立するなど、国家安全保障体制が強化された。また安倍政権は、アメリカの支持のもと、現行憲法下での集団的自衛権行使容認の方向に向けて調整をすすめている。


第4位:東京オリンピック開催決定

9月、国際オリンピック委員会(IOC)総会において、2020年夏季オリンピックの会場として、東京が選出された。


第5位:沖縄県知事、辺野古埋め立て承認

鳩山政権が普天間基地の県外移設を掲げて以来、混乱を極めていた辺野古への移設計画であるが、今年末に仲井眞・沖縄県知事が辺野古の埋め立て計画を承認した。仲井眞知事は、今回の承認は申請に出された辺野古の埋め立て計画を事務的に処理しただけであり、県外移設を求めていく方向に変わりはない、と宣言しているが、事実上、辺野古への米軍基地移設の容認となるのではないかとみられている。


第6位:駐日米大使にケネディ米大統領の娘キャロライン・ケネディ氏就任

春頃より、前任のジョン・ルース駐日米大使の公認として、ケネディ米大統領の娘キャロライン・ケネディ氏の名前が浮上し、7月にホワイトハウスより正式発表があった。10月には議会での承認も受け、11月より駐日大使に就任、ビッグネームの起用により日米関係の親密さがアピールされた。


第7位:福島第一原発汚染水漏れ

2011年の福島第一原発事故の収束作業が続く福島第一原発で、放射性物質を含んだ汚染水が漏出している。安部首相は2020年夏季五輪に向けたIOCに対するプレゼンテーションにおいて、汚染水は完全にコントロール下にあると宣言したが、汚染水問題対策は依然として迷走を続けている。


第8位:徳洲会事件(猪瀬直樹・東京都知事辞職)

日本最大の医療グループである徳洲会から、昨年12月の衆院選の際に複数の議員に対して不正な資金提供があったことが発覚、徳洲会グループ関係者数人が逮捕されるとともに、徳洲会出身の徳田毅議員が自民党を離党することとなった。さらに、東京都知事の猪瀬直樹氏も徳洲会グループから不正な資金提供を受けていたことが発覚、猪瀬知事の辞任へとつながった。


第9位:韓国軍のPKO部隊への弾薬供給

南スーダンでPKO活動を展開中の韓国軍部隊からの要請を受け、自衛隊のPKO部隊が韓国軍部隊に弾薬を供給した。これは外国軍部隊への武器の供給にあたるため、武器輸出三原則の緩和に向けた布石であると同時に、集団的自衛権行使容認に向けた布石とであるとみなされた。一方、韓国側からは悪化する日韓関係を受けて、弾薬支援に対する強い反発の声が出ている。


第10位:日ロ関係

日本の安部首相とロシアのプーチン大統領は、今年だけで4回もの首脳会談を行い、北方領土問題の早期解決を目指すことや外務・防衛閣僚級会談「2+2」を開催することで一致するなど、日ロ関係の親密さがアピールされた。


その他:

消費税増税、来年4月から8%に引き上げ決定
TPP交渉参加表明
飯島勲・内閣官房参与の訪朝、朝鮮労働党内序列2位の金永南・最高人民会議常任委員会委員長との会談
安部首相による靖国神社参拝
日・トルコ原子力協定
伊豆大島での台風被害
埼玉・千葉での竜巻被害
冷えきった日韓関係
アルジェリア人質拘束事件