2013年12月31日火曜日

勝手に選ぶ2013年の10大ニュース - 世界編



今年は、アメリカの国際的地位の低下と、ロシア・中国の影響力増大が感じられる1年であった。


1位:シリア内戦

2011年2月から続くシリア内戦においては、今年に入ってアサド政権側による化学兵器の使用疑惑が急浮上した。シリア内戦の初期から内戦への関与は反体制派への武器支援程度にとどめていたアメリカのオバマ政権は、直接軍事介入へのレッドラインを政府軍による大量破壊兵器の使用と宣言していたため、アメリカがついに重い腰を上げて軍事介入に向けて動き出した。しかし、9月の米ロ会談で、ロシア側提案による化学兵器の廃棄計画が決定し、軍事介入は回避された。これによって、ロシアの国際的影響力増大とアメリカの影響力低下が国際社会に印象づけられた。


2位:中国の防空識別圏設定(尖閣諸島問題)

今年11月に中国軍当局は突如として防空識別圏(ADIZ)の設定を発表、発表されたADIZが日本の実効支配下にある尖閣諸島上空を含んでいたり、韓国や台湾のADIZとも重複域があることなどから東アジアにおける緊張が高まっている。特に、中国の設定したADIZは東シナ海海域に大きくせり出した形となっており、日本との尖閣諸島をめぐる領土問題が背景にあることは明らかだ。さらに、中国軍当局は自国が設定したADIZについて、ADIZ内を航行する航空機の飛行計画の提出義務を課すことや、指令に従わない航空機に対して武力措置を講じることを宣言し、領空と同等な扱いをすることを公表した。これは、国際法上慣例となっている公海上空の航行の自由の原則を明白に侵害するものであり、また各国のADIZ運用とも異なるため、この事件をきっかけに尖閣諸島問題は単なる日中間の局所紛争から、アメリカ中心の国際秩序(すなわちアメリカの覇権)に対する中国の明白な挑戦であると諸外国に受け取られるようになった。


3位:アベノミクス

日本の安倍政権が打ち出したアベノミクスは、デフレ脱却のために金融緩和と財政出動をパッケージ化することを謳った政策であり、世界中の注目を集めている。金融緩和や財政出動は、それぞれ単独では過去に何度も行われた不況対策の定番であるが、それらを組み合わせてパッケージ化するという政策は世界初の試みであり、世界中の金融・財政当局がその成否を見守っている。大規模な金融緩和は自国の通貨価値を必然的に低下させるため、事実上の為替操作であるとの批判もあったが、G20において日本は「円安誘導」ではなく「インフレ誘導」が目的であると宣言したため、国際社会からも概ね承認されている。一方で、「3本の矢」の3本目の矢として期待された「成長戦略」に対する失望感も出ている。


4位:アメリカNSAによる盗聴発覚

暗号解読、通信傍受等が専門のアメリカの諜報機関・国家安全保障局(NSA)の元職員であるエドワード・スノーデン氏が香港においてNSAによるインターネット情報収集システム「PRISM」の存在を暴露、NSAによる世界規模での盗聴活動が発覚し国際問題に発展した。これをきっかけとして、各国の大使館に対する盗聴活動などNSAの活動実態が次々とスクープされ、これら諜報活動の対象となった同盟国からも抗議を受けるなど、アメリカの国際的な信頼が傷つけられた。スノーデン氏はアメリカ司法省より指名手配を受けたため、PRISMの存在の暴露後に香港からモスクワへ移動、最終的に「米国に損害を与える活動をしない」という条件のもとに、1年間のロシアでの滞在が許された。


5位:「財政の崖」問題とアメリカ政府機関閉鎖危機

アメリカでは膨大な政府債務を削減するために、2013年1月1日より強制歳出削減措置がとられることが決まっていたが、昨年12月31日に民主党・共和党両党の合意が達成されたため、強制削減措置は今年2月28日まで凍結されていた。しかし、3月1日からはついに強制削減措置が実行に移され、国防総省を中心に米国政府の機能は大きな影響を受けた。予算年度末の9月には、政府予算や債務上限額をめぐって民主党・共和党の間の合意が得られなかったため、新年度となる10月からは政府予算が執行できず、ついに米政府機関の一部が閉鎖されるという事態になった。およそ2週間後に、政府再開のための暫定予算と債務不履行回避のための債務上限額の引き上げで共和党が合意したため、閉鎖された政府機関の活動は再開されたが、この政府機関の一部閉鎖を伴う与野党間の駆け引きによって米国議会に対する信頼は大きく損なわれた。


6位:北アフリカにおけるイスラム原理主義勢力の拡張

昨年以来、イスラム・マグレブのアルカイダ機構(AQIM)やアンサール・アッディーンなどのイスラム原理主義勢力によりマリ北部のトゥアレグ人居住地域「アザワド」が占領されたことを受け、1月にフランスがマリ北部に対して軍事介入を実施、その後アフリカ諸国連合軍に任務を引き継いだ。これに対する反発として、アルジェリアではアルカイダ系勢力イスラム聖戦士血盟団が、天然ガス精製プラントを襲撃し、人質をとるなどの事件が発生した。


7位:エジプトクーデター

2011年のエジプト革命後、民主的な選挙により選ばれた初の文民大統領ムハンマド・ムルシーによる、イスラム主義的な政策や大統領権限を大幅に強化した専制的な姿勢に対する国民の批判が強まったため、7月にシーシー国防相らが中心となり軍部がクーデターを実行、アドリー・マンスール最高憲法裁判所長官が暫定大統領に就任し、ムルシーはおよそ1年で政権を追われることになった。その後8月、このクーデターに反対するムスリム同胞団を中心としたデモ隊に対し、軍部は強制排除措置を実行、諸外国から批判を受けた。なお、エジプトに対する軍事支援を続けるアメリカのオバマ政権は、「クーデター」と認定すると軍事支援が不可能となるため、これを「クーデター」との発言を避けている。


8位:イラン政権交代

核開発疑惑をめぐり欧米諸国と対立を繰り広げているイランにおいて大統領選が行われ、強硬派のマフムード・アフマディネジャドが退任し、穏健・改革派とみなされるハッサン・ロウハニがイラン大統領に就任、核開発問題で新たな流れを見せるのではないかと期待された。しかしながら、イランにおいて大統領は最高指導者ではなく、最高指導者であるアリー・ハメネイが現役でいる限り、状況は変わらないのではないかという評価もある。


9位:北朝鮮、張成沢処刑

北朝鮮の最高指導者である金正恩・国防委員会委員長・朝鮮労働党第一書記の叔父で、国防委員会副委員長の立場にあった張成沢が、12月に突如としてあらゆる地位を剥奪され、秘密警察である国家保衛部による特別軍事裁判により死刑が確定、即日処刑された。張成沢は対中経済交易の最大の窓口であり、かつ羅先特別市の中国・ロシアへの開放など改革・開放路線の主導者であったため、今回の処刑は、北朝鮮への影響力行使をもくろむ中国に対する牽制を意味するものとみられる。


10位:ロシア連続自爆テロ

12月末に、ソチ五輪を目前に控えたロシアのボルゴグラードで2日連続で自爆テロが発生した。ロシアでは相次ぐテロにより、今年だけで400人の死者が出ている。背景には、チェチェン共和国などのロシアからの分離独立を求めるイスラム原理主義勢力がいるとみられている。


10位:フィリピン巨大台風

11月にフィリピンに巨大台風(アジア名:ハイエン、フィリピン名:ヨランダ)が上陸、フィリピン国内で死者6155人、行方不明者1785人という甚大な被害が発生した。


その他:

アフガニスタン情勢:2014年末までに、国際治安支援部隊(ISAF)の撤退が予定されている中、米国大使館付近で爆発が起きるなど治安は依然として悪化を続けている

パレスチナ情勢:断続的なガザからのイスラエル攻撃と、それに対する報復であるイスラエルによるガザ空爆の一方で、イスラエルがパレスチナ人囚人を釈放するなど和平合意に向けた歩み寄りもみられる。