2009年2月21日土曜日

アメリカに迫り来るファシズムの罠

「アメリカにファシズムが到来しつつある」と聞くと、すぐに「軍産複合体が大統領をも上回る権力を手にし、戦争経済をつくるためにアメリカを裏で支配して 戦争を起こそうとしている」というよく聞く話を思い浮かべるだろうが、今回の話はそのような「陰謀論」ではない。今、あえてアメリカにファシズムの影が忍 び寄っているとまで言い切るのは、ほかならぬバラク・オバマ大統領の誕生のためである。もちろん、オバマに独裁者志向があるといっているわけではない。し かし、オバマ政権の政権運営にファシズムと共通の要素が見え隠れするのだ。

オバマは人種、宗教、支持政党、富裕層と貧困層などの違いを乗り越えて、全ての国民を「アメリカ合衆国」というひとつの国家の下に糾合しようとし ている。これは、イラク戦争の是非をめぐって起こった国内対立と未曾有の経済危機を乗り切るために当然必要なことのようにみえる。特に、イラク戦争を巡っ ては、支持者と反対者の間で、互いの意見を聞こうとすらしなくなるほどの深刻な亀裂が生じた。これは、異なる意見の持ち主同士が率直な対話を通して意思決 定するという民主主義のエッセンスが、深刻な危機に陥っていたことを意味する。この深刻な対立を克服するために、オバマがアメリカをひとつにまとめようと するのは当然のことのようにみえる。

ここで気をつけなければならないのは、民主主義で重要なことは、常に異なる意見が存在し、反対者が存在するということである。あらゆる違いを乗り 越え、ひとつの旗の下にまとめるということを徹底しすぎると、反対者も存在しない全体主義的な傾向を帯びてくる。ファシズムの特徴とは、全ての国民をひと つの国家の下に糾合し、国民を総動員して国家機能を強化しようとする点にある。そして、国民をひとつに糾合するために、しばしば排外主義的な性質を帯び る。

2月17日、オバマ内政の最初の課題である、7870億ドルという空前の規模の景気対策法案が成立した。共和党は、この法案にはまだ修正すべき点 が多いとして審議の継続を求めたが、オバマ政権与党の民主党は早期成立が重要であるとして採決を強行、大半の共和党議員の反対を数の力で押し切ってしまった。実際、この法案自体が膨大な条項からなるので、共和党側の主張ももっともなものである。だが、オバマ自身は「法案の成立を一日でも遅らせることは罪に等しい」とまで言い切った。結局、民主 主義のエッセンスである「異なる意見の持ち主同士の率直な議論」を無視し、オバマ政権が目指していた「超党派性」は早くも失われてしまった。これが、反対 意見の存在を認めない全体主義的な性格を帯びていることに気をつけなければならない。しかも、この景気対策法案は、政府が積極的に経済に関与するという、 国家機能の強化を謳っている上に、「バイ・アメリカン条項」という極めて排外主義的な要素をはらんでいる。

国家や社会が危機に陥ると、しばしば強力なリーダーを期待する機運が高まり民主主義のエッセンスが忘れられがちになる。我々はこのようなファシズムの魅惑に打ち勝たなければならない。