2008年11月20日木曜日

今年は寒冷化トレンドか

11月19日、日本列島各地で初霜や初雪が観測された。北海道など高緯度地域や山頂などの高地では、今年の初雪が平年より遅いところも多いようだが、中緯度地域の平地では広い範囲で平年より早い初霜・初雪となった。日本国内の中緯度地域の平地では、近年で11月に降雪を観測することはほとんどなかった。このような傾向は日本だけのことではなく、今年は世界でも軒並み寒くなるのが早いようだ。イギリスのロンドンでは、実に1934年以来74年ぶりに、10月の積雪を観測したという。なぜ今年はこのように広い範囲で寒冷化するのが早いのだろうか。

それは今年の春から夏にかけて曇りや雨の日が多かったため、本来大気が暖められるべき時期に十分熱が蓄えられなかったためだと思われる。では、なぜ今年の春から夏にかけて雲が多く発生したのか。実は、昨年から今年にかけて太陽の黒点数が極小期に入っている。そしてこの黒点数は、太陽の活動の強さを表している。太陽表面からは太陽風と呼ばれる、高速の荷電粒子の流れが噴き出されているが、太陽の活動が弱くなると太陽風も弱くなる。そして、その太陽風は太陽系外からやってくる宇宙線を押し返す働きをするのだ。そのため、太陽活動が弱まると地球はより多くの宇宙線に曝されることになる。

そして、この宇宙線もまた高速の荷電粒子の流れである。宇宙線が大気中に入射すると、その電離作用によって大気原子がイオン化される。これが凝結核となり、より多くの雲が発生すると考えられているのだ。つまり、太陽活動が弱くなると、宇宙線を押し返すはたらきをする太陽風が弱くなり、その結果地球はより多くの宇宙線に曝されることになり、結果として雲が多く発生すると考えられているのだ。これは考案者のデンマークの科学者の名前を取って、スヴェンスマルク効果と呼ばれる。

ここでひとつ疑問が残る。太陽風も宇宙線も同じ荷電粒子の流れであるにもかかわらず、なぜ宇宙線の方が雲の発生に大きく寄与するのか、という問題である。それは、宇宙の彼方からやってくるほどのエネルギーを持つ宇宙線の方が、ひとつひとつの粒子の持つエネルギーが高い、ということで説明できる。つまり、量子力学における光電効果と同じで、いくら荷電粒子の数が多くてもひとつひとつの粒子のエネルギーが十分高くなければ雲の生成反応は起こりにくいと考えられるのだ。荷電粒子による大気原子の電離反応は、荷電粒子と大気原子との一対一の反応であると考えられるので、この考えは十分妥当であると私は考える。

したがって、太陽活動が極小期に入っている今は、寒冷化していて当然な時期なのだ。去年は各地で猛暑や暖冬などが観測されたが、これはラ・ニーニャ現象による一時的な現象だったのかもしれない。だとすれば、地球はこのまま寒冷化に向かってもおかしくはない。もちろん、今年の寒波も一時的な現象という可能性も十分にありうる。

このように、地球の気候には様々な要因が複雑に絡み合っているので、気候変動を考えるときにはこのような要因すべてを考慮に入れる必要がある。

2008年11月17日月曜日

アメリカは過去の大帝国と同じ轍を踏むのか

 前回の記事で、私はオバマ当選の陰でアメリカ内部に深刻な危機が潜んでいることを指摘した。その危機とは、ブッシュ政権下で表面化した保守強硬派の台頭である。彼らは現実の問題に対して理性的に対応することよりも、自分自身の価値観を盲信することを選択している。そのため、異なる意見の持ち主との対話を持とうという姿勢は見られない。これはアメリカ政治の理念であるはずの民主主義が相当深刻な危機に陥っていることを意味している。なぜなら民主主義のエッセンスとは単なる多数決ではなく、異なる意見の持ち主同士の率直な対話を通して意思決定を行うことだからである。オバマはアメリカをひとつにまとめることを訴えてアメリカ国民の大半の支持を得ることができたが、一部の保守強硬派は初の黒人大統領の誕生によって一層強硬になり、深刻な対立が生まれる可能性も無視できない。

 第二次世界大戦以後の60年余りにわたって、アメリカは世界のトップとして君臨してきた。しかし、ローマ帝国、オスマン帝国、大英帝国といった過去の大帝国はいずれも最後には衰退していった。アメリカもこれらの過去の大帝国と同じ轍を踏んでしまうのだろうか。実際、そのような兆候はすでに見え始めているようにみえる。

 その原因はやはりイラク戦争である。ブッシュ政権が国論を二分したままイラク戦争を決断してしまったことによって、アメリカ国内の賛成派と反対派との対立は深刻なものとなり、両者の間の溝は大きく広がった。その結果、両者とも互いの意見を聴こうという姿勢を持たなくなり、両者の間の対話は失われてしまった。すなわち、民主主義の危機である。また、そのようにして始まったイラク戦争が泥沼にはまったことによって、アメリカの国際的な威信も大いに傷つけられた。現在、アメリカに信頼を置いている国はほとんどないだろう。さらにサブプライム問題に端を発する景気後退は、今年9月のリーマン・ショックによって世界的な金融恐慌へと拡大した。アメリカが衰退に向かっているというのは確実なことのように思える。

 だが、アメリカという国は決して侮れない。過去にもアメリカが現在のような危機に陥ったことは何度もあった。だがその度に、リンカーン、ルーズヴェルト、ケネディ、レーガンのようなリーダーが現れてそれを克服してきたのだ。国が危機に陥ったとき、必ずそのような状況を克服できる強力なリーダーが現れる。それが、アメリカという国の凄さなのだ。
 
 なぜそのようなことが可能なのだろうか。アメリカと、その他の過去の覇権国家との違いは、アメリカは超大国となった国の中で唯一、民族ではなく理念を基に作られた理念国家だということである。民族にはこだわらず、世界中の人々を惹きつける人類に普遍的な理念を基にした国家だから、アメリカには多様な才能が集まった。だからアメリカは、超大国としての地位によって傲慢と自己満足に陥ったときも、やがてはそれを正す自浄作用が働き、超大国としての地位を維持し続けることができる。

 さらに言えば、アメリカは今までのなかで唯一、崩壊したことのない理念国家でもある。過去にもソ連やユーゴスラビアなど、民族ではなく理念を基に作られた国家はあったが、それらは100年も続くことなく崩壊した。それだけ理念先行の国家を作るのは現実には難しいのである。それをアメリカはオープンさと、そこから生まれるダイナミズムによって克服したのである。そこがソ連やユーゴスラビアなどとの違いなのだ。

 今回の大統領選挙でも、今アメリカが陥っている危機を克服しようという強力なリーダーが現れた。それは、今回の選挙の投票率が64.1%という戦後最高の数値を示したことからもわかる。ちなみに、これまでの戦後最高の数値は1960年の大統領選のものであり、この選挙でもケネディという強力なリーダーが誕生したのだ。実際、この高い投票率が示すとおり、今回の大統領選挙は例年にない盛り上がりを見せた。それは、大統領選に勝利したオバマの訴える変革に対する期待のためだけではなく、対立候補のマケインも大統領にふさわしい見事な人物だったからでもある。実際、マケインの潔い敗北宣言は、これからのアメリカの前向きな変化を思わせるに十分なものだった。黒人大統領誕生によって、仮に今後アメリカ国内に混乱が起きたとしても、それもいずれ避けて通れない道である。その困難をアメリカは確実に乗り越えるだろうと感じさせるに十分なほど、オバマとマケインの戦いはすばらしいものだった。

 だが、オバマ登場による不安は他にもある。ひとつめは、オバマが伝統的な民主党の価値観にしたがって保護主義に戻ることだ。経済のグローバル化は、今や先進国にとっても途上国にとっても彼らの成長にとって必須のものになっている。先進国は発展する市場を必要としている。途上国にとっては経済成長のための技術移転と製品の輸出先が不可欠だ。もしオバマが保護主義に走るようなことになったらアメリカの国際競争力は一気に低下し、その影響はブーメランのようにアメリカの国内経済に跳ね返ってくるだろう。さらに、経済のブロック化に走ったことが第二次世界大戦につながったという歴史も忘れることはできない。

 もうひとつの心配は、アメリカと敵対する国々から経験の浅い新大統領が甘く見られ、さらにアメリカの威信が低下することである。アメリカが現在国際協調路線に戻る必要があるのは明らかであり、オバマ次期大統領もその方向で今後のアメリカ外交を進めるものと思われる。だが、その国際協調の目的は、あくまでもアメリカに対する世界の信頼を取り戻すという、アメリカの国益追求のためでなければならない。もしこの国益追求という目的を忘れて一方的な譲歩を行えば、イラン、北朝鮮など国際問題を抱えており、かつアメリカと敵対している国々の勢いを増長させかねない。そうなれば国際秩序が崩壊し、アメリカに対する信頼はさらに低下するだろう。外交、安全保障、軍事に強いマケインと同じ能力をオバマが有しているかどうかは未知数である。そのマケインは敗北宣言において、「私は彼(オバマ)が国を率いるのを支えるだろう。」と語った。マケインは今後、新大統領の最も真摯な批判者かつ協力者となるだろう。

2008年11月16日日曜日

アメリカ大統領選 4 - マケインの敗因に見るアメリカの問題点

米国東部時間の11月4日、長かった戦いについに終止符が打たれた。アメリカ合衆国大統領選挙で、民主党候補のバラク・オバマ上院議員が、共和党候補のジョン・マケイン上院議員を圧倒し、第44代次期合衆国大統領に選出された。私は前回の記事でジョン・マケインの勝利を予測したが、それを見事に覆す結果となった。今回は、なぜマケインが敗北したかの原因を明らかにしたい。それが間違った予測を出した者の責任であるだけでなく、それによって現在アメリカが抱えている問題点も浮かび上がってくるからだ。

マケインが敗北した最大の原因は、彼が共和党内をまとめることに失敗したからだ。それを最も象徴的に表したのが、第1期ブッシュ政権の国務長官を務めた共和党員のコリン・パウエルによるオバマ支持表明である。これに対してオバマ陣営は、民主党予備選挙が6月まで長引いたために党内対立が深まっていたにもかかわらず、本選挙前の10月までには党内のとりまとめに成功していた。

なぜマケインは共和党内のとりまとめに失敗したのか。それは、選挙中の彼の演説に集まった聴衆の姿を見ればわかる。

もともとマケインは共和党内の中ではかなりリベラルに近い立場の人物であり、そのため中道・現実派層を中心に幅広い支持が期待されていたはずだった。だが、それでは前大統領ブッシュの当選に際して大きな影響力を発揮した保守強硬派の支持は得られない。そのためマケインは副大統領候補として保守派のサラ・ペイリン・アラスカ州知事を選んだ。それによって確かに保守強硬派の支持は上がった。事実、サラ・ペイリンの起用直後、マケインはそれまで負けていた世論調査の支持率でオバマを逆転し引き離すことに成功した。私はこれによってマケイン勝利の可能性が大きくなったとみたが、どうやらこれは大きな誤算だったようだ。

マケインの集会に集まった聴衆の中には、「オバマを殺せ!」などと叫ぶ連中すらいたという。たまらずマケインが彼らをなだめにかかると、今度はマケインに対してブーイングが飛ぶ始末だった。このような
過激な支持者らの姿を見て危機感を感じたのだろう、リベラル・中道層はマケイン支持から離れていった。こうしてマケイン本来の強みであったリベラル層からの支持をマケインは失ってしまった。

この例はあくまでも極端なものだが、もっと穏やかなものでも共和党の保守層の融通のなさを示す例がある。それが9月に起きたリーマン・ブラザーズ破綻をきっかけに急速に加速した金融危機だ。ブッシュ政権はこの危機にただちに対応し、不良債権の買取のため最大約7000億ドルの公的資金投入を定めた緊急安定化法案を提出したが、下院によって否決された。(後に修正を加えた後に議会の承認を得て、成立した)このときの反対票の多くは、共和党員によるものだった。なぜなら、市場への公的資金投入は、小さな政府を標榜する共和党の伝統的価値観にそぐわなかったからである。彼らは柔軟な対応をとって現実の問題を解決することよりも、原理原則を守ることに固執したのだ。マケインは金融安定化法案成立のために奔走したが、結局自らの足元を固めることができなかった。

このように現在の共和党保守層には、現実的な政策よりもイデオロギー的、空想論的なスローガンにこだわる勢力が増えている。そしてそのような態度が、ブッシュ政権をイラク戦争へと突き進ませた要因でもあった。イラク戦争を主導したネオコンは、国益のための現実的外交よりも、他国に民主主義を広めるという無謀で独善的な理想を優先させたためにイラクで過ちを犯したのだ。また、聖書の記述に反する進化論や地質学を否定し、教育現場では神による創造論を教えるべきだと主張するキリスト教右派も、共和党の大きな支持層となっている。マケインは彼らを説得して党内をまとめることができなかった。

マケインと立場的には近いはずのコリン・パウエルが、あえて民主党候補のオバマ支持を表明したのは、このような共和党内のキリスト教右派など原理主義的な勢力の台頭を警戒したためだと思われる。

また、10月末にはオバマ暗殺を計画していた人種差別主義者が摘発されるという事件も起きた。史上3番目に若く、初の黒人大統領候補であるバラク・オバマの当選にアメリカ中が沸き立つ中で、アメリカの未来に暗雲が立ち込めているのを感じざるを得ない。