2008年11月16日日曜日

アメリカ大統領選 4 - マケインの敗因に見るアメリカの問題点

米国東部時間の11月4日、長かった戦いについに終止符が打たれた。アメリカ合衆国大統領選挙で、民主党候補のバラク・オバマ上院議員が、共和党候補のジョン・マケイン上院議員を圧倒し、第44代次期合衆国大統領に選出された。私は前回の記事でジョン・マケインの勝利を予測したが、それを見事に覆す結果となった。今回は、なぜマケインが敗北したかの原因を明らかにしたい。それが間違った予測を出した者の責任であるだけでなく、それによって現在アメリカが抱えている問題点も浮かび上がってくるからだ。

マケインが敗北した最大の原因は、彼が共和党内をまとめることに失敗したからだ。それを最も象徴的に表したのが、第1期ブッシュ政権の国務長官を務めた共和党員のコリン・パウエルによるオバマ支持表明である。これに対してオバマ陣営は、民主党予備選挙が6月まで長引いたために党内対立が深まっていたにもかかわらず、本選挙前の10月までには党内のとりまとめに成功していた。

なぜマケインは共和党内のとりまとめに失敗したのか。それは、選挙中の彼の演説に集まった聴衆の姿を見ればわかる。

もともとマケインは共和党内の中ではかなりリベラルに近い立場の人物であり、そのため中道・現実派層を中心に幅広い支持が期待されていたはずだった。だが、それでは前大統領ブッシュの当選に際して大きな影響力を発揮した保守強硬派の支持は得られない。そのためマケインは副大統領候補として保守派のサラ・ペイリン・アラスカ州知事を選んだ。それによって確かに保守強硬派の支持は上がった。事実、サラ・ペイリンの起用直後、マケインはそれまで負けていた世論調査の支持率でオバマを逆転し引き離すことに成功した。私はこれによってマケイン勝利の可能性が大きくなったとみたが、どうやらこれは大きな誤算だったようだ。

マケインの集会に集まった聴衆の中には、「オバマを殺せ!」などと叫ぶ連中すらいたという。たまらずマケインが彼らをなだめにかかると、今度はマケインに対してブーイングが飛ぶ始末だった。このような
過激な支持者らの姿を見て危機感を感じたのだろう、リベラル・中道層はマケイン支持から離れていった。こうしてマケイン本来の強みであったリベラル層からの支持をマケインは失ってしまった。

この例はあくまでも極端なものだが、もっと穏やかなものでも共和党の保守層の融通のなさを示す例がある。それが9月に起きたリーマン・ブラザーズ破綻をきっかけに急速に加速した金融危機だ。ブッシュ政権はこの危機にただちに対応し、不良債権の買取のため最大約7000億ドルの公的資金投入を定めた緊急安定化法案を提出したが、下院によって否決された。(後に修正を加えた後に議会の承認を得て、成立した)このときの反対票の多くは、共和党員によるものだった。なぜなら、市場への公的資金投入は、小さな政府を標榜する共和党の伝統的価値観にそぐわなかったからである。彼らは柔軟な対応をとって現実の問題を解決することよりも、原理原則を守ることに固執したのだ。マケインは金融安定化法案成立のために奔走したが、結局自らの足元を固めることができなかった。

このように現在の共和党保守層には、現実的な政策よりもイデオロギー的、空想論的なスローガンにこだわる勢力が増えている。そしてそのような態度が、ブッシュ政権をイラク戦争へと突き進ませた要因でもあった。イラク戦争を主導したネオコンは、国益のための現実的外交よりも、他国に民主主義を広めるという無謀で独善的な理想を優先させたためにイラクで過ちを犯したのだ。また、聖書の記述に反する進化論や地質学を否定し、教育現場では神による創造論を教えるべきだと主張するキリスト教右派も、共和党の大きな支持層となっている。マケインは彼らを説得して党内をまとめることができなかった。

マケインと立場的には近いはずのコリン・パウエルが、あえて民主党候補のオバマ支持を表明したのは、このような共和党内のキリスト教右派など原理主義的な勢力の台頭を警戒したためだと思われる。

また、10月末にはオバマ暗殺を計画していた人種差別主義者が摘発されるという事件も起きた。史上3番目に若く、初の黒人大統領候補であるバラク・オバマの当選にアメリカ中が沸き立つ中で、アメリカの未来に暗雲が立ち込めているのを感じざるを得ない。

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