2008年6月16日月曜日

アメリカ大統領選 2 - 40年前の悪夢の再来はあるか

 2008年5月の時点で民主党大統領候補指名獲得レースにおいてすでに敗色が濃厚となっていたヒラリー・クリントン上院議員は5月23日、致命的なミスを犯した。選挙戦を続ける理由を訊かれた際、彼女はこう答えたという。

 「ボビー・ケネディが暗殺されたもの6月だった。」

 ボビー・ケネディとは、今からちょうど40年前の大統領選で民主党から出馬し、民主党候補指名獲得を目前にして暗殺されたロバート・ケネディ元司法長官(J.F.ケネディの実弟)のことである。 確かに今回の選挙の状況は40年前の状況と非常によく似ている。 1968年、アメリカはベトナム戦争の泥沼にはまり込み、アメリカに対する世界の信用は失墜、戦費拡大に伴うドルの下落と不景気の拡大によって国内は分裂状態に陥った。べトナム反戦運動と公民権運動が結びついた結果、国内では毎日のように暴動が起こっていた。

 そのとき、国内の融和とベトナムからの即時撤退を訴えて大統領選に名乗りを上げたのが、弱冠43歳のボビーだった。上院議員としての経歴こそ4年にも満たなかったが、彼にはケネディ政権の司法長官時代に人種問題の解決のために連邦政府のあらゆる権限を行使したという実績があったため、広い人種層からの支持があった。彼は最大の州であるカリフォルニアでの予備選に勝利し、民主党候補指名獲得をほぼ確実にした直後の6月5日に暗殺された。

 このような状況が、そのまま今回の選挙にバラク・オバマが出てきた状況とあてはまるのは明らかだろう。 今、アメリカはイラク戦争の行き詰まりによりアメリカの国際的地位は低下しつつあり、国内は分裂状態に近い。そのような状況の中で、イラクからの即時撤退と国内の融和を訴えて出てきたのが、弱冠46歳のバラク・オバマ。しかも彼は初の黒人候補という人種的ハンディキャップを負っている。 そもそも、今回の選挙でケネディ家のメンバーやケネディ政権の中枢で働いた者がそろってオバマを支持しているのも、彼にケネディの再来を思わす素質があるからなのだ。

 では、オバマ暗殺が起こる可能性はどれだけあるのだろうか。結論から言うと、オバマ暗殺が起こる可能性は限りなく低いといえる。確かに状況は40年前に非常に似ているが、それでもこの40年間でアメリカ国内は大きく変わった。ケネディ兄弟の暗殺、そして人種問題は、今やアメリカ現代史の暗部として人々に記憶されている。ほとんどのアメリカ国民は、このような出来事は決して繰り返してはならない歴史の汚点だと思っている。そしてそれは一般市民だけでなく、政治家や政府関係者の間でも同じ思いであるはずだ。もし仮に再び同じようなことが起これば、アメリカに対する世界の信用は間違いなく完全に失墜する。国内の分裂も決定的なものになるだろう。40年前の悪夢が再びよみがえってしまうのだ。そのようなことは、一般国民はもちろん、政治家や政府関係者も決して望んではいない。

 もちろん、狂信者はどこの国にもいるもので、人種的な問題からオバマの暗殺を狙っている集団は今でもアメリカ国内にいるだろう。しかし、今回はアメリカという国の意志が、それを決して許さないはずだ。

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