2013年9月5日木曜日

シリア軍事介入へと「引きずり込まれる」オバマ政権

ついにアメリカのオバマ政権がシリア内戦への軍事介入を決断した。現在は議会に対して武力行使の容認を求めているところだが、野党共和党は軒並み賛成の構えなので、議会の承認はほぼ確実である。

しかし、オバマの本音は、シリア内戦に「引きずり込まれた」というのが実際のところではないだろうか。これまでもアメリカは決してシリア内戦に対して静観の構えをとっていたわけではない。今までのところは主にCIAが中心となって反政府勢力に対して物資の援助を行っていたが、本格的な武器援助は躊躇していたようだ。それは、反政府勢力にはあまりにも得体のしれない勢力が混じっており、彼らに大量の武器が渡り、さらに彼らがシリアのアサド現政権を倒したらどのような事態が生じるかわからないからだ。そのため、オバマはアメリカが直接介入はもちろん、大規模な武器援助すら慎重に避けてきた。

しかし、オバマのこのようなシリア内戦への消極的な姿勢はメディアや野党共和党、さらには国際社会からの批判にしばしば晒されてきた。アメリカは世界随一の大国として、シリアの事態の収束のために影響力を行使して責任を果たせ、というわけだ。世界的な危機に対してアメリカが一切の行動を起こさなかったとみなされれば、アメリカの国際的な地位が損なわれる。その上、フランスのような他国にこの問題で主導権を取られたら、アメリカのメンツは丸つぶれだ(シリアはフランスの旧委任統治領であり、フランスはシリアに対して一定の影響力を持っている)。そこでオバマは、アサド政権による大量破壊兵器の使用を、武力行使へのレッドライン(超えてはならない一線)と設定した。そして今回、ついにアサド政権が化学兵器を使用しレッドラインを超えたという報告がなされた。こうしてオバマは、シリア内戦への軍事介入に「追い込まれる」形となったのだ。この消極的な姿勢を示すように、オバマは軍事介入はあくまでも空からの援助を主体とし、地上軍は決して投入しない構えである。

しかし、このように「流される」ようにしてなされる軍事介入は、しばしばその目的が曖昧になり、泥沼へと陥る危険性がある。ケリー国務長官は、軍事介入の目的を「シリア内戦の終結」ではなく「化学兵器の使用に対する懲罰と再発防止」であると語ったが、漠然としていてよくわからない目標だ。目標を明確にし、その目標を達した段階で直ちに撤退しなければ、軍事行動を終結するタイミングを見失ってしまう。一度軍事介入を決断した以上、内戦の終結が実現されなければ撤退するのは難しいだろう。

内戦の終結に向けた「明確な」目的として考えられることは、以下の2つがある。

1. アサド政権の打倒
2. 反政府勢力とアサド政権間の停戦実現、そしてその後の両者間の和平交渉

1. の「アサド政権打倒」が目的だとすると、アメリカはその後のシリア統治体制の確立に第一義的な責任を持たなければならなくなる。しかし前述したように、シリアの反政府勢力の中には明らかに得体のしれない勢力が紛れ込んでおり、彼らが内戦後のシリアの統治主体となることは非常にリスクが大きいと考えられる。さらにいえば、そもそも現在の反政府勢力は様々な勢力の寄せ集めで、内戦後の統治主体となる確固とした組織体は存在しない。このような現状でアサド政権が打倒されたとしても、その後の混乱は明らかだ。

2. を目標としたとしても、前述のように反政府勢力自体が確固とした組織を持っていない中で、果たしてまともな和平交渉が行えるのか大いに疑問だ。恐らくこの目標は実現できないだろう。

以上のことを考えると、オバマとしては現段階で「アサド政権の打倒」を目標にすることはできずに、なんとか「反政府勢力とアサド政権との和平交渉」を実現させようとするだろう。しかし、結局それは実現できずに内戦はいつまでもずるずると続く。恐らくこの間、ロシアはアサド政権に対する武器援助は行うものの、決して直接軍事介入には踏み切らないだろう。もしそれを行えば、それはアメリカとの直接対決になってしまうからだ。したがって最終的には、アメリカの空軍力の援助を受けた反政府勢力がほぼ確実に勝利するだろう。しかし、確固とした代替勢力がないまま統治主体を失ったシリアは、その後さらなる混乱に見舞われる・・・

このように、アメリカが軍事介入に踏み切れば、ほぼ確実にアサド政権が崩壊すると思われる。こうして考えると、イラク戦争の開始からほぼ10年で、イラクのフセイン、リビアのカダフィに続いて、シリアのアサドといったアラブの対イスラエル最強硬派が全て消え去ることになる。しかし、シリアの前途はイラクやリビアと比べて非常に厳しい。イラクには、アフマド・チャラビ率いる「イラク国民会議」という反体制組織がまがりなりにも存在し、フセイン政権崩壊後のイラク統治の主体となり得た。リビア内戦では、ムスタファー・アブドルジャリルを始めとするカダフィ政権の高官らが政権側に反旗を翻し、反政府軍の主体となった「リビア国民評議会」に合流し、内戦後の統治を担った。しかし、シリアの反政府勢力には、このような戦後の統治を担う勢力が存在しない。

さらに、シリアの反政府勢力が勝利した場合、エジプトの騒乱に拍車がかかる可能性がある。エジプトの現在の騒乱は、エジプトの軍部が7月3日にムスリム同胞団系のムハンマド・ムルシー大統領を解任し、さらにそれに対する抗議デモを8月14日に軍部が武力を用いて強制排除したことがきっかけとなっている。この抗議デモの強制排除について、エジプト軍部はデモ隊から治安部隊に対する発砲があったことを理由としているが、それが事実であるとしたら、デモ隊にどこかから武器が流れていることが確実だ。ムスリム同胞団は、シリアの反政府勢力の中心勢力の一つでもある。

オバマ政権は、エジプト軍部によるムルシー大統領の追放およびデモ隊の強制排除に対して非難声明を出してはいるが、ムルシー大統領の追放を「クーデター」であると認定するのを慎重に避けている。これは、クーデターであると認定した場合、エジプトに対する軍事援助が法的に不可能になるためである。つまりこれは、エジプト軍部に対する非難声明はあくまでも建前上出したものであり、心情的にはエジプト軍部側であることを示している。したがって、アメリカの軍事介入によって、シリアのムスリム同胞団の勢力が伸長した場合、アメリカはエジプトでも非常に難しい立場に立たされるだろう。

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