2013年9月20日金曜日

国連の機能回復なしに、シリア問題の外交的解決は不可能

9月16日、シリアでの化学兵器使用疑惑に関する国連の調査報告は、8月21日のダマスカス近郊への攻撃で、サリンを充填したロケット弾が使用されたと断定した。ただし、このサリン弾が政府側と反政府側のどちらの陣営によって使われたかについては明らかにしていない。そもそもこの国連調査団の任務は、あくまでシリア国内で化学兵器が使用されたかどうかを判断することのみであり、どちらの陣営によって使用されたかについての調査は任務内容に含まれてすらいない。

常識的に考えて、シリア内戦で化学兵器が使用されたのであれば、どちらの陣営が使用したのかは非常に重要な問題となるはずである。その結果如何によって、国際社会によるシリア内戦への介入の仕方も当然異なってくるはずだからだ。だが、この国連調査団は、その問いに対する答えを明言することを避けたばかりか、そもそも最初からその問題を調査対象としなかった。この理由は、いずれの答えが出ようとも、国連安保理の常任理事国であるアメリカもしくはロシアのどちらかからの批判を必ず受けるからであろう。すなわち、アメリカは「化学兵器はアサド政権側が使用した」と主張するであろうし、ロシアは「反政府側が使用した」と主張するだろう。つまり国連調査団は両者の間の板挟みにあい、あえてこの問題に取り組むことをはじめから避けたのである。

この事実は、今の国連の権威を示している。国連は、安保理常任理事国を超える権威は持ち合わせていない。彼らのいずれかに反対されたら何もできず機能不全に陥るのだ。しかし、シリアでの深刻な事態に対して国連が何もできないという状況を、国際世論がそのまま黙って受け入れられるものでもない。国連が何もできないのであれば、「独自のアプローチを使ってでもシリア内戦に介入し、人道的に求められる役割を果たせ」という圧力を欧米先進国は受けることになるだろう。既に米英仏は、今回の国連調査報告を受けて、化学兵器の使用はアサド政権によるものであると主張し、介入への姿勢を強めている。もし、アサド政権側によって既に化学兵器が使用されたのだとすれば、先日のシリアの化学兵器廃棄に向けた米ロ合意は覆される可能性が高い。国連が安保理常任理事国に対しても毅然とした態度を取り、どちらの陣営が化学兵器を使用したか堂々と調査し結果を公開できない限り、有効な国連安保理決議なしに、なし崩し的にシリアへの軍事介入へとつながる可能性が高いだろう。

2013年9月16日月曜日

イラク戦争の二の舞いを避けたい世界

9月14日、ロシアのラブロフ外相とアメリカのケリー国務長官が、シリアの化学兵器を2014年前半までに廃棄させるという外交的枠組みで合意した。これによって、アメリカはシリアへの軍事介入を当面見送ることになる。シリアのアサド政権も、国連に対し化学兵器禁止条約への正式加盟を表明するなど、この枠組みへの合意を示している。

ロシア提案のこの枠組みが早くも米ロ間でまとまり、そして当事者たるシリア政府も早くも賛意を示し、またその他多くの先進国も概ねこの合意を支持しているのは、各国がそれぞれ思惑は違えど、10年前のイラク戦争の二の舞いだけは避けたいと考えたからだ。10年前、アメリカのブッシュ政権はイラクのフセイン政権の大量破壊兵器保有疑惑を理由にイラク攻撃を開始したが、その後結局イラクから大量破壊兵器保有の証拠は見つからず、アメリカの国際的信頼を大きく失墜させた。一方でロシアのプーチン政権は、アメリカの単独行動を止めることができずに世界の行く末を大きく変えるような問題に関して一切影響力を発揮することができず、冷戦後の米ロ間の力の差を露呈することになった。そしてアメリカの同盟国・友好国の多くは、アメリカの行動に対して無批判に追随したと批判された。これらの国々が、イラク戦争と同じ状況に陥るのを避けたいと考え、今回のような外交的取り組みに賛意を与えたのは当然のことである。そして、シリアである。10年前、イラクのフセイン政権は国連査察団に対して妨害・非協力的姿勢を示したため、それを根拠に圧倒的な武力で攻めこまれ、崩壊した。いかにアメリカによる一方的攻撃が世界から非難されようとも、自分の政権が崩壊してしまっては何の慰めにもならない。もともとシリアの化学兵器は、隣国の強大なイスラエル軍との戦力差を少しでも埋めることを目的として保有されたものだが、周囲の国際政治状況が変化してイスラエルとの全面的な軍事衝突の可能性が低くなった今、シリアとしては化学兵器を保有することに固執するより、アメリカによる軍事介入を避けたほうが得策であろう。

さらにいえば、世界が最も避けたい「イラク戦争の二の舞い」として、政権崩壊後の国内の混乱が挙げられる。イラクのフセイン政権は宗教に対しては世俗的な姿勢をとりつつ国内を鉄の支配で固めていたため、アルカイダなどのイスラム原理主義勢力が国内に入り込む隙がなかった。これはシリアのアサド政権も同様である(現在のバッシャール・アサド大統領の父親のハーフェズ・アサドの時代には、中部の都市ハマーでムスリム同胞団に対する大量虐殺が起きている)。ところがフセイン政権崩壊後は、無政府地帯となったイラク国内に、国外から大量のイスラム原理主義勢力が入り込み、治安の悪化を招いた。既にシリア内戦における反政府勢力の中には、イスラム原理主義勢力が入り込んでいると見られている。アサド政権が崩壊したあと、いつの間にやらこの勢力がポスト・アサド勢力の主体となり、シリアを支配する可能性が高い。同様のことは既に昨年、アフリカのマリ共和国の北部地域アザワドで起きており、これが今年初めのフランスによる軍事介入を招いた。さらに言えば、このフランスの軍事介入が、日本人も犠牲になったアルジェリアの人質事件へとつながったのである。世界がシリアでの混乱を避けたい理由がここにある。

しかしながら、今回の外交的枠組みがどれほど実効性を持つのが疑問視する声もある。今回の枠組みでは、シリア側による化学兵器に関する自己申告と、その後の化学兵器禁止機関による査察がポイントとなっているが、内戦中のシリアでは査察官が十分な査察を行えるのかどうかは疑わしい。さらに言えば、シリアの化学兵器廃棄のデッドラインとして設定された2014年は、アフガニスタンで治安維持活動を続ける国際治安支援部隊(ISAF)の完全撤退が予定されている年であるため、ISAFの主力を構成するアメリカはなんとしてでもアフガニスタンの治安を回復しなければならない立場に立たされる。したがって、シリア問題に回す余力は乏しくなり、シリアの化学兵器廃棄プロセスに対するチェックが甘くなる可能性がある。また、今回の合意でかいま見えるのは、国際社会が真剣に動くのは大量破壊兵器など国際的な安全保障に重大な影響を与える問題についてのみであり、既に2年半も続いているシリア内戦の終結そのものに向けて国際社会が積極的な取り組みを見せることはなさそうだということである。このことは、シリアの人々にとって大きな苦痛をもたらすだろう。

2013年9月11日水曜日

アメリカの軍事介入の歴史

アメリカによるシリアへの軍事介入の成否を考えるための重要な材料として、第二次大戦後のアメリカの軍事介入の歴史を簡単にまとめてみた。

・朝鮮戦争(1950-1953)
北朝鮮が突如北緯38度線の国境線を越えて韓国に侵攻、不意を付かれた韓国軍は敗退を続け、半島の南東部まで追い詰められる。これを受けてアメリカは国連安保理でソ連代表が欠席している隙をついて北朝鮮武力制裁決議を可決させ、国連軍を結成する。国連軍の参戦を受けて、補給線が伸びきっていた北朝鮮軍は一気に押し返される。ここで朝鮮半島統一の好機とみた韓国は、逆に北緯38度線を越境して北進を開始、北朝鮮は朝鮮半島最北部まで追い詰められ、半島統一間近となる。ところがこれが中華人民共和国の介入を招き、朝鮮半島は米中直接対決の場となり、泥沼に陥る。最終的に戦線は38度線付近で膠着し、あくまでも朝鮮半島の統一を目指す韓国の頭越しに北朝鮮・中国との間で休戦協定を結び、休戦に至る。

・ベトナム戦争(1960-1975, 米直接介入期間1964-1973)
北ベトナムにバックアップされた南ベトナム民族解放戦線によるゲリラ攻撃に悩まされていた南ベトナムを支援するため、アメリカは長年軍事顧問団を派遣し南ベトナム軍を訓練していたが、南ベトナムの混乱は収まらず、1964年のトンキン湾事件を足がかりについに直接軍事介入を開始。朝鮮戦争の二の舞いを恐れたためか、アメリカは北ベトナムを叩き潰すべき対象とは見なさず、あくまでも交渉相手として扱った。そのため、アメリカは北ベトナムに対する攻撃は限定的なものとし、地上軍の派遣も南ベトナム領内に留め(解放戦線のゲリラ掃討のため)、北ベトナムを交渉の場に引きずり出し、南ベトナムに対する攻撃をやめさせようとした。しかし、南北の分断を固定化させようとするアメリカの目論見に、統一を目指す北ベトナムが同意するはずがなかった(そもそも1954年のジュネーブ協定でベトナムは統一されるはずだったのに、それを無視して居直ったのが南ベトナムだった)。アメリカの中途半端な態度は結局戦争の泥沼化を招く。最終的には1973年にアメリカは撤退、アメリカの後ろ盾を失った南ベトナムは1975年に敗戦し崩壊する。

・湾岸戦争(1991)
1990年にイラク軍がクウェートを占領、イラク領の一部として併合する。国連安保理はイラクに対してクウェートからの即時撤退を求める決議を可決、これに合わせてアメリカは多国籍軍を結成、イラクが安保理決議を履行する意思がないことを確認すると、国連憲章第42条に基づきクウェートを占領するイラクに対する攻撃を開始。数々のハイテク兵器を投入した多国籍軍は完全に制空権を確保、圧倒的な攻撃力でイラク軍をほぼ無力化した。また、目的はあくまでもクウェートのイラク軍からの解放に限定したため、このクウェートを解放し目的を達成したのちはただちに戦闘行動を停止し、イラクのフセイン政権の打倒は目指さなかった。

・アフガニスタン侵攻(2001-)
9.11テロの首謀者であるアルカイダのオサマ・ビンラディンを匿うアフガニスタンのタリバン政権に対して、アメリカはビンラディンの引き渡しを求めるが拒否される。これを受けて有志連合を結成してアフガニスタンへの侵攻を開始。地上戦はアフガニスタン国内の反タリバン勢力である北部同盟が行い、有志連合軍の介入は空からの北部同盟軍の援助に留めた。北部同盟軍は最終的にタリバン政権を打倒し、その後はハミド・カルザイがアフガニスタンの統治を担い、NATO軍により構成される国際治安支援部隊(ISAF)が国連の承認のもとアフガニスタンの治安活動を担う。しかし2006年ごろからアフガン国内でタリバンが勢力を再拡大、その後の治安は悪化の一途をたどる。ISAFは、2014年末までに撤退予定。

・イラク戦争(2003-2011)
イラクのフセイン政権の大量破壊兵器保有疑惑およびアルカイダとの関係疑惑により、アメリカは有志連合を結成してイラクを攻撃、フセイン政権を崩壊させた。しかし、その後の占領政策でつまずき、イラク国内の治安は急速に悪化。2007年より占領政策を見直し、兵力を大幅に増派。その後徐々に治安は回復し、2011年に全ての権限をイラク政府に移管し、米軍はイラクより撤退。

・リビア内戦(2011)
アラブの春の流れを受けて、リビアでカダフィ政権に対する大規模な反政府デモが発生。これに対して政府軍が徹底的な武力弾圧を加えたため、政権側から反政府勢力側への離反者が続出、反政府軍とカダフィ政権との間で内戦状態となる。はじめ介入に消極的だったアメリカは、フランスの積極的な姿勢やアラブ連盟からの介入要請を受けて、国連安保理でリビア領内の飛行禁止区域設定と空爆の承認決議を得る。この決議に基づき米英仏を中心とするNATO軍が介入を開始、介入はあくまでも空からの反政府軍への支援に止め、地上戦は反政府軍が行った。最終的に反政府軍はカダフィ政権の打倒に成功、そのまま戦後の統治を担った。


こうしてみると、アメリカの軍事介入が成功するためには

1. 介入の目的が明確に限定・定義されていること
2. 国連を始めとした国際社会からの支持を受けていること
3. 目的を達成するために最大限の力を投入することができること

の3つの条件が満たされている必要があることがわかる。今回のシリアへの軍事介入の流れを見る限り、これらの条件はまだ一つとして満たされていないように見える。これらの条件を満たさない限り、今回のシリアへの軍事介入が良い結果をもたらすことはないだろう。

2013年9月5日木曜日

シリア軍事介入へと「引きずり込まれる」オバマ政権

ついにアメリカのオバマ政権がシリア内戦への軍事介入を決断した。現在は議会に対して武力行使の容認を求めているところだが、野党共和党は軒並み賛成の構えなので、議会の承認はほぼ確実である。

しかし、オバマの本音は、シリア内戦に「引きずり込まれた」というのが実際のところではないだろうか。これまでもアメリカは決してシリア内戦に対して静観の構えをとっていたわけではない。今までのところは主にCIAが中心となって反政府勢力に対して物資の援助を行っていたが、本格的な武器援助は躊躇していたようだ。それは、反政府勢力にはあまりにも得体のしれない勢力が混じっており、彼らに大量の武器が渡り、さらに彼らがシリアのアサド現政権を倒したらどのような事態が生じるかわからないからだ。そのため、オバマはアメリカが直接介入はもちろん、大規模な武器援助すら慎重に避けてきた。

しかし、オバマのこのようなシリア内戦への消極的な姿勢はメディアや野党共和党、さらには国際社会からの批判にしばしば晒されてきた。アメリカは世界随一の大国として、シリアの事態の収束のために影響力を行使して責任を果たせ、というわけだ。世界的な危機に対してアメリカが一切の行動を起こさなかったとみなされれば、アメリカの国際的な地位が損なわれる。その上、フランスのような他国にこの問題で主導権を取られたら、アメリカのメンツは丸つぶれだ(シリアはフランスの旧委任統治領であり、フランスはシリアに対して一定の影響力を持っている)。そこでオバマは、アサド政権による大量破壊兵器の使用を、武力行使へのレッドライン(超えてはならない一線)と設定した。そして今回、ついにアサド政権が化学兵器を使用しレッドラインを超えたという報告がなされた。こうしてオバマは、シリア内戦への軍事介入に「追い込まれる」形となったのだ。この消極的な姿勢を示すように、オバマは軍事介入はあくまでも空からの援助を主体とし、地上軍は決して投入しない構えである。

しかし、このように「流される」ようにしてなされる軍事介入は、しばしばその目的が曖昧になり、泥沼へと陥る危険性がある。ケリー国務長官は、軍事介入の目的を「シリア内戦の終結」ではなく「化学兵器の使用に対する懲罰と再発防止」であると語ったが、漠然としていてよくわからない目標だ。目標を明確にし、その目標を達した段階で直ちに撤退しなければ、軍事行動を終結するタイミングを見失ってしまう。一度軍事介入を決断した以上、内戦の終結が実現されなければ撤退するのは難しいだろう。

内戦の終結に向けた「明確な」目的として考えられることは、以下の2つがある。

1. アサド政権の打倒
2. 反政府勢力とアサド政権間の停戦実現、そしてその後の両者間の和平交渉

1. の「アサド政権打倒」が目的だとすると、アメリカはその後のシリア統治体制の確立に第一義的な責任を持たなければならなくなる。しかし前述したように、シリアの反政府勢力の中には明らかに得体のしれない勢力が紛れ込んでおり、彼らが内戦後のシリアの統治主体となることは非常にリスクが大きいと考えられる。さらにいえば、そもそも現在の反政府勢力は様々な勢力の寄せ集めで、内戦後の統治主体となる確固とした組織体は存在しない。このような現状でアサド政権が打倒されたとしても、その後の混乱は明らかだ。

2. を目標としたとしても、前述のように反政府勢力自体が確固とした組織を持っていない中で、果たしてまともな和平交渉が行えるのか大いに疑問だ。恐らくこの目標は実現できないだろう。

以上のことを考えると、オバマとしては現段階で「アサド政権の打倒」を目標にすることはできずに、なんとか「反政府勢力とアサド政権との和平交渉」を実現させようとするだろう。しかし、結局それは実現できずに内戦はいつまでもずるずると続く。恐らくこの間、ロシアはアサド政権に対する武器援助は行うものの、決して直接軍事介入には踏み切らないだろう。もしそれを行えば、それはアメリカとの直接対決になってしまうからだ。したがって最終的には、アメリカの空軍力の援助を受けた反政府勢力がほぼ確実に勝利するだろう。しかし、確固とした代替勢力がないまま統治主体を失ったシリアは、その後さらなる混乱に見舞われる・・・

このように、アメリカが軍事介入に踏み切れば、ほぼ確実にアサド政権が崩壊すると思われる。こうして考えると、イラク戦争の開始からほぼ10年で、イラクのフセイン、リビアのカダフィに続いて、シリアのアサドといったアラブの対イスラエル最強硬派が全て消え去ることになる。しかし、シリアの前途はイラクやリビアと比べて非常に厳しい。イラクには、アフマド・チャラビ率いる「イラク国民会議」という反体制組織がまがりなりにも存在し、フセイン政権崩壊後のイラク統治の主体となり得た。リビア内戦では、ムスタファー・アブドルジャリルを始めとするカダフィ政権の高官らが政権側に反旗を翻し、反政府軍の主体となった「リビア国民評議会」に合流し、内戦後の統治を担った。しかし、シリアの反政府勢力には、このような戦後の統治を担う勢力が存在しない。

さらに、シリアの反政府勢力が勝利した場合、エジプトの騒乱に拍車がかかる可能性がある。エジプトの現在の騒乱は、エジプトの軍部が7月3日にムスリム同胞団系のムハンマド・ムルシー大統領を解任し、さらにそれに対する抗議デモを8月14日に軍部が武力を用いて強制排除したことがきっかけとなっている。この抗議デモの強制排除について、エジプト軍部はデモ隊から治安部隊に対する発砲があったことを理由としているが、それが事実であるとしたら、デモ隊にどこかから武器が流れていることが確実だ。ムスリム同胞団は、シリアの反政府勢力の中心勢力の一つでもある。

オバマ政権は、エジプト軍部によるムルシー大統領の追放およびデモ隊の強制排除に対して非難声明を出してはいるが、ムルシー大統領の追放を「クーデター」であると認定するのを慎重に避けている。これは、クーデターであると認定した場合、エジプトに対する軍事援助が法的に不可能になるためである。つまりこれは、エジプト軍部に対する非難声明はあくまでも建前上出したものであり、心情的にはエジプト軍部側であることを示している。したがって、アメリカの軍事介入によって、シリアのムスリム同胞団の勢力が伸長した場合、アメリカはエジプトでも非常に難しい立場に立たされるだろう。

2012年8月11日土曜日

「エネルギー・環境に関する選択肢」へのパブリック・コメント

 「真の愛国者は問いを発する」とは、米国の著名な天文学社・惑星学者であるカール・セーガンの著書「悪霊にさいなまれる世界 - 「知の闇を照らす灯火」としての科学」の最終章のタイトルである。この最終章「真の愛国者は問いを発する」には、科学の懐疑的精神、すなわち科学的思考法が、民主主義下における市民の教養、民主社会に於ける思想様式として、どれだけ必要不可欠のものであるかが示されている。

さて、今回の「エネルギー・環境に関する選択肢」
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=095120900&Mode=0
は、 2030年までのエネルギー政策の方向性を決めるのみならず、今後この国がどのような方向に向かって行くか、その長期的将来像をも決める非常に重要な問題である。さらにエネルギー問題は、冷静な科学的知見に基づく議論が必要不可欠であり、民主社会において科学の素養を持つものの一人として、私は自らの意見を表明しなければならないと感じた。

前置きが長くなったが、以下が私のパブリックコメントの内容である。ぜひご一読いただきたい。

概要:

2030年以降の長期的な国の将来像に関する議論も含めるべきであり、それに応じて前提となる経済成長率に幅を持たせるべきである。また、電力を介さない熱の直接利用を検討し、さらなる電力消費削減を目指すべきである。

本文:
 
1. 2030年以降の長期的な国の将来ヴィジョンに関して

エネルギー政策は、単にエネルギーの供給方法をどうするかだけではなく、今後 の国のあり方や目指す方向性、すなわち長期的な国の将来像をも決めるものである。「エネルギー・環境に関する選択肢」では、2030年までのエネルギー供 給計画に対する選択肢が示されているが、エネルギー政策の基本的方向性を定めるには、さらにその先の国のあり方に対する将来的なヴィジョンを示すことも必 要ではないかと考える。もちろん、その将来的なヴィジョンに関しては国民的合意が取れていないので、具体的なシナリオを提示することは今回はできないであ ろう。しかし、最後の章で補足として、50年後程度の長期的未来についてどのようなヴィジョンがありうるか選択肢を示し、そこへ至るまでの課題について挙 げることは、今後のエネルギー政策に関する国民的議論を促す上で非常に重要であると考える。私見としては長期的な国家目標として、「再生可能エネルギーだ けで賄える程度の生活水準・経済規模へと移行する」ことと、その上で「エネルギー消費の増大を伴わずに成り立つ社会・経済システムを構築する」というヴィ ジョンを提示すべきだと考える。なぜならば、非再生可能エネルギーはそもそも枯渇の可能性があり、再生可能エネルギーは枯渇の恐れはないとしても、一定の 期間(例えば1年間)の間に消費できるエネルギー量には、やはり限界があり、エネルギー消費量を永久に増大させ続けることは物理的に不可能だからである。 そして、そのような社会を構築する上での考えられる課題を挙げ、それらについて国民的議論を促すことが必要であると考える。

2. 2030
年までの選択肢の前提となる経済成長率について

1.
で挙げたように、2030年以降の国の長期的なあり方について、いくつかの長期的ヴィジョンの選択肢を示すことは非常に重要であると考える。それに伴い、 2030年までのエネルギー政策シナリオに関しても、現行の選択肢で想定されている単一の経済成長率(2010年比で2割増)に基づいたシナリオだけでは なく、経済成長予測にも幅を持たせ、複数の経済成長率前提それぞれの基に、それぞれのシナリオを提示するべきだと考える。たとえば、国土交通省の「国土の 長期展望に向けた検討の方向性について」で示された日本の人口予測によると、2030年での人口は、2010年比で1割減程度である。全体の人口が1割程 度減少するという予測の中で、今回のシナリオのようにGDP2割増という予測が適切かどうか、よく検証する必要があると考える。たとえば、もし人口が1 割程度減少した場合は、何らの省エネ努力を行わなかったとしても、一人当たりの経済活動量が一定であるとすれば、今回の2030年までの3つのシナリオに おける総電力消費量予測(2010年比で約1割減)は自然に達成できてしまう。また逆に、産業界からは今回のシナリオでの経済成長予測は低すぎるという指 摘がある。この点からも、単一の経済成長予測のものでのシナリオだけではなく、複数の経済成長予測に基づいてシナリオを作成することは必要であると考え る。

3.
各シナリオにおける総電力消費予測について

現行のシナリオにおけるGDP成長予測(2010年比で約2割増) を前提とした場合でも、現行のシナリオ(2010年比で約1割減)以上に電力消費を抑えることは可能ではないかと考える。現行のシナリオでは、GDPあた りの電力消費を現在の75%に抑えるという想定であり、かなり挑戦的な目標であるといえるだろう。電力消費をこれ以上抑えるのは、いかに電力利用効率を高 めても難しいように感じるかもしれない。しかし、現在電力により賄っているエネルギー利用用途を、電力以外の適切なエネルギー源により賄うことにより、総 電力消費を大幅に削減できる上に、全体の総エネルギー消費も削減することができると考える。特に、熱利用という形態に着目すべきである。一般的に言って、 電力を熱に利用するのはエネルギー利用効率が悪くなる。というのは、熱力学的観点からすると熱を電力に変換するのは非常に効率が悪いのであるが、現状の発 電方法の多くは、一次エネルギー源から熱を生み出し、その熱を電力に変換しているためである。したがって、エネルギーを熱利用するのであれば、電力を介さ ず熱源を直接利用することが望ましい。全エネルギー利用の3割ほどを占める民生部門においては、エネルギー消費の半分近くが冷暖房等の熱利用の形態をとっ ているため、これらの用途には電力を用いるのではなく熱源を直接用いることにより、GDPあたりの電力消費量を現在の85%まで抑えることができる。さら に、太陽熱や地中熱、人工廃熱など、発電に利用するには力不足であるが、熱利用の用途では十分活用可能な未利用の熱源は多く存在する。つまり、エネルギー 利用方法として電力のみを考えるのではなく、エネルギー利用形態に応じた適切なエネルギー供給方法を考えることにより、エネルギー利用効率を改善し、電力 消費およびエネルギー消費量を大きく削減することは可能であると考える。さらに、このような熱の直接利用は原理自体は単純で、再生可能エネルギー技術の開 発に比べて、研究開発コストや開発期間を大きく抑えることができると期待できる。極めて野心的な目標ではあるが、熱の直接利用による電力消費の削減および 熱の直接利用のための新たなエネルギー源の開発を検討されたい。

4.
今後の原子力研究について

いずれのシナリオを選択 するにせよ、原子力研究の継続は必要である。現状で使用済み核燃料の最終的な処分方法が決まっていないことは原発立地自治体にとっては受け入れ難いこと だ。使用済み核燃料中の放射能を低減する方法を確立する等、使用済み核燃料の最終処分方法に関する技術研究は必要不可欠である。すなわち「原発に正しく引導を渡す」ための基礎研究は絶対に必要である。今後の原子力研究の方向性についても検討されたい。

2011年12月2日金曜日

第三次世界大戦は中東と極東から始まる: イランの核開発と「アラブの春」、そして北朝鮮

最近、イラン情勢が激動している。イランの核開発が一層進展していることを受けて先月(11月)21日、英国、米国、カナダがイランに対する金融制裁を発 動、これに対する報復としてイラン国会は英国との外交関係を弱める法案を同月27日に可決、同月29日には英国の金融制裁に抗議するイラン人のデモ隊が駐 イラン英国大使館に乱入する騒ぎとなり、ついに翌30日、英国は同大使館の閉鎖を決定した。さらに、フランス、ドイツ、オランダなど他の西欧諸国も駐イラン大使の一時召還を決定し、イランと西側諸国との関係が急激に悪化している。

そのような情勢の中、英タイムズ紙は30日、イラン第3の都市イスファハンで28日に核施設の爆発が起きたと報じた。イランでは、12日にもテヘラン郊外の武器庫で爆発が起きているという。

イランの核問題がここまで注目される理由の一つは、イランの大統領マフムード・アフマディネジャードは、「イスラエルを地図から抹消」することを 公言しているからである。一方、イスラエルは、自国の生存を守るためにはいかなる手段をも辞さないような国である。例を挙げれば、1981年のイラクの原 子炉爆撃、2007年のシリアの核施設爆撃など、枚挙に暇がない。そしてそのイスラエルは、公式には否定も肯定もしていないが、核兵器を既に保有してい る。

したがって、もしイランが核兵器を完成させるようなことになれば、イランはイスラエルをただちに核攻撃するかもしれない。そして、そのように自国 に対して核攻撃を仕掛けてくるかもしれない国に対するイスラエルの反応としては、次のような可能性も十分に考えられる。すなわち、核攻撃に対する報復、も しくは核攻撃を未然に叩き潰すために、イランに対して核を使用する。

もしもイスラエルがイランに対して核を行使するような事態になれば、周辺のアラブ諸国も黙っていられないだろう。たとえアラブ諸国の政治指導者が イスラエルの恐ろしさを十分承知してイスラエルとの対立を避けようとしても、それでは自国民からの突き上げを食うことは必至だ。既に今年初めから進行中の 「アラブの春」で、アラブの政治体制は、もはや自国民の不満をコントロールしきれなくなっていることは証明済みである。アラブの政治指導者は、いやでもイ スラエルに対して強硬な姿勢に出ざるを得なくなる。

そのような事態になると、全アラブを巻き込んでの対イスラエル戦争となる可能性も拭えない。かつてない規模の中東戦争となることは必至である。

西側諸国としては、このような展開になることは決して看過できない。したがって、西側諸国の間では、イランに核を持たせることは決してあってはならない、というのが共通認識になっている。

ここで問題になってくるのが、中東から遥か離れた極東の北朝鮮である。イランは、1980年代のイラン・イラク戦争時から北朝鮮と水面下でつなが り、様々な支援を受けてきた。ただしこのイランと北朝鮮とのつながりは、特に近年ではイデオロギー的なものというより、財政破綻に陥っている北朝鮮の外貨 獲得の一環という面が強い。北朝鮮は、2006年には核兵器開発を成功させているが、外貨獲得の一環として核技術やミサイル技術の提供をイランやシリアな どに対して行っている。

既に核兵器開発を成功させている北朝鮮が、今後もイランに対する技術支援を進めれば、イランが核開発を成功させる可能性はますます高くなる。した がって、アメリカは、北朝鮮から核技術が他国に流出することが決してないように北朝鮮と水面下で極めて微妙な交渉を行っていると思われる。アメリカが北朝 鮮に対して、強硬姿勢を取れなくなっている理由はこれだと考えられる。

だが逆に言えば、それでも北朝鮮がイランに対して核技術の移転を行うようであれば、そのときは北朝鮮に対する全面攻撃も辞さない、ということにな る。もし万が一そのような事態になれば、北朝鮮としてもただ黙ってやられるわけにはいかない。まだ実戦に使えるレベルにまで達していなかったとしても、そ のときは最期のあがきとして核を使ってくる可能性がある。そのときターゲットとなるのは、極東米軍の機能の大半が集まっている韓国か日本だ。

第三次世界大戦が始まるとすれば、それはイランか、北朝鮮を火種として始まることになる。

2009年2月21日土曜日

アメリカに迫り来るファシズムの罠

「アメリカにファシズムが到来しつつある」と聞くと、すぐに「軍産複合体が大統領をも上回る権力を手にし、戦争経済をつくるためにアメリカを裏で支配して 戦争を起こそうとしている」というよく聞く話を思い浮かべるだろうが、今回の話はそのような「陰謀論」ではない。今、あえてアメリカにファシズムの影が忍 び寄っているとまで言い切るのは、ほかならぬバラク・オバマ大統領の誕生のためである。もちろん、オバマに独裁者志向があるといっているわけではない。し かし、オバマ政権の政権運営にファシズムと共通の要素が見え隠れするのだ。

オバマは人種、宗教、支持政党、富裕層と貧困層などの違いを乗り越えて、全ての国民を「アメリカ合衆国」というひとつの国家の下に糾合しようとし ている。これは、イラク戦争の是非をめぐって起こった国内対立と未曾有の経済危機を乗り切るために当然必要なことのようにみえる。特に、イラク戦争を巡っ ては、支持者と反対者の間で、互いの意見を聞こうとすらしなくなるほどの深刻な亀裂が生じた。これは、異なる意見の持ち主同士が率直な対話を通して意思決 定するという民主主義のエッセンスが、深刻な危機に陥っていたことを意味する。この深刻な対立を克服するために、オバマがアメリカをひとつにまとめようと するのは当然のことのようにみえる。

ここで気をつけなければならないのは、民主主義で重要なことは、常に異なる意見が存在し、反対者が存在するということである。あらゆる違いを乗り 越え、ひとつの旗の下にまとめるということを徹底しすぎると、反対者も存在しない全体主義的な傾向を帯びてくる。ファシズムの特徴とは、全ての国民をひと つの国家の下に糾合し、国民を総動員して国家機能を強化しようとする点にある。そして、国民をひとつに糾合するために、しばしば排外主義的な性質を帯び る。

2月17日、オバマ内政の最初の課題である、7870億ドルという空前の規模の景気対策法案が成立した。共和党は、この法案にはまだ修正すべき点 が多いとして審議の継続を求めたが、オバマ政権与党の民主党は早期成立が重要であるとして採決を強行、大半の共和党議員の反対を数の力で押し切ってしまった。実際、この法案自体が膨大な条項からなるので、共和党側の主張ももっともなものである。だが、オバマ自身は「法案の成立を一日でも遅らせることは罪に等しい」とまで言い切った。結局、民主 主義のエッセンスである「異なる意見の持ち主同士の率直な議論」を無視し、オバマ政権が目指していた「超党派性」は早くも失われてしまった。これが、反対 意見の存在を認めない全体主義的な性格を帯びていることに気をつけなければならない。しかも、この景気対策法案は、政府が積極的に経済に関与するという、 国家機能の強化を謳っている上に、「バイ・アメリカン条項」という極めて排外主義的な要素をはらんでいる。

国家や社会が危機に陥ると、しばしば強力なリーダーを期待する機運が高まり民主主義のエッセンスが忘れられがちになる。我々はこのようなファシズムの魅惑に打ち勝たなければならない。